目的を表す「〜ように、〜」(みんなの日本語36課)

日本語の教案

可能動詞とその辞書形の復習

最初に、可能動詞とその辞書形の復習をしました。

次のようなプリントを作って練習しました。

Ⅱグループ
調べます   →調べられます→調べられる
覚えます   →覚えられます→覚えられる
見ます    →見られます→見られる
出ます    →出られます→出られる
起きます   →起きられます→起きられる
借ります   →借りられます→借りられる

Ⅲグループ
出席します  →出席できます→出席できる
来ます    →来られます→来られる

Ⅰグループ
買います   →買えます→買える
持ちます   →持てます→持てる
作ります   →作れます→作れる
休みます   →休めます→休める
遊びます   →遊べます→遊べる
死にます   →死ねます→死ねる
書きます   →書けます→書ける
泳ぎます   →泳げます→泳げる
話します   →話せます→話せる

上の可能動詞とその辞書形の列は、プリントを折るなどして見えないようにするように学生に言いました。

キューとして、ます形を言って、学生に可能動詞とその辞書形を言わせました。

そのあと、学生のペアで同じ練習をするつもりでしたが、学生が間違わずに言えていたので、ペアの練習はしませんでした。

学生ペアの練習で、学生がわからなかったり間違えたりしたときに、キューを出した学生が教えられるように、正解をプリントにしています。

意志動詞、無意志動詞をどう教えたか

次のような表を作りました。

意志動詞   無意志動詞
【自分で決めることができる】   【自分で決めることができない】
書きます   (コップが)割れます
話します   (花が)咲きます
  (病気が)治ります  
  (時間に)間に合います  
  (パンが)売れます  
  見えます  
  作れます  
  起きられます  
  連絡します  
  (ビルを)建てます  
  見ます  
  考えます  

真ん中の列の動詞が「意志動詞」「無意志動詞」のどちらになるかを聞いていきました。

この動詞の片側に「→」か「←」のどちらかを書けば、正解を書いたことになるので、学生の書く手間が少なく時間がかかりません。

「(病気が)治ります」から「起きられます」までが無意志動詞で、「連絡します」から「考えます」までが意志動詞です。

先生:「書きます」「話します」は、自分で決めることができます。

先生:「コップが割れます」「花が咲きます」は、自分で決めることができません。

先生:「病気が治ります」は、右(無意志動詞)ですか。左(意志動詞)ですか。

順番に聞いていきました。

学生は「病気が治ります」「時間に間に合います」は、左(意志動詞)だと答えました。

これは、病気が治るように努力する、時間に間に合うように努力するのだから、意志動詞だと考えたようです。

これには、説明のしようがなく、この動詞は右(無意志動詞)ですと教えました。

可能動詞も右(無意志動詞)だと教えました。

最後に、意志動詞、無意志動詞という言葉を教えました。

「意志動詞」と「無意志動詞」をこのやり方で教えましたが、うまくいったと思えませんでした。

「自分で決めることができる」と「自分で決めることができない」という分け方に問題があるように思います。

学生が「時間に間に合うように努力する」と考えたように、「自分で決めることができない」と言い切れない場合があるからです。

「〜ように、〜」の導入

(映画館にいます)映画がよく見えます。

先生:これはいいことですか。

学生:いいことです。

先生:そうですね。何をしますか。

映画館の座席の図をかいて、学生にどのあたりに座るのかを聞きました。

学生:真ん中の席に座ります。

板書した「映画がよく見えます」の所にA、「真ん中の席に座ります」所にBと書いて、「A+B」と書きました。

先生:A+Bは、どうなりますか。

先生:映画がよく見えるように、真ん中の席に座ります。

先生:「ように」を使います。

日本語が話せます。

先生:これはいいことですか。

学生:いいことです。

先生:そうですね。何をしますか。

学生:毎日勉強します。

板書した「日本語が話せます」の所にA、「毎日勉強します」の所にBと書いて、A+Bと書きました。

先生:A+Bは、どうなりますか。

学生:日本語が話せるように、毎日勉強します。

先生:日本語が話せるように、毎日勉強しています。

先生:「勉強します」は「これから」です。「勉強しています」は「いつも」です。

「〜ように、〜」の例文

  1. 日本語が上手に話せます・毎日復習しています
    →日本語が上手に話せるように、毎日復習しています。
  2. かぜが治ります・昨日は薬を飲んで寝ました
    →かぜが治るように、昨日は薬を飲んで寝ました。
  3. 約束の時間に間に合います・駅まで走りました。
    →約束の時間に間に合うように、駅まで走りました。
  4. 結婚式に出席できます・仕事を休みます
    →結婚式に出席できるように、仕事を休みます。

「〜ように、〜」の練習

  1. 夜、すぐに寝られません。こんなときはどうしますか。
    →(                          )

    解答例:夜、すぐに寝られるように、寝るまえにコーヒを飲みません。

  2. 朝、なかなか起きられません。こんなときはどうしますか。
    →(                          )

    解答例:朝、すぐ起きられるように、夜早く寝ます。

「〜ないように、〜」の導入

時間に遅れます。

先生:これはいいことですか。

学生:いいことじゃありません。

先生:そうですね。何をしますか。

学生:少し早く家を出ます。/朝起きる時間を決めます。

板書した「時間に遅れます」の所にA、「少し早く家を出ます」の所にBと書いて、A+Bと書きました。

先生:A+Bは、どうなりますか。

学生:時間に遅れないように、少し早く家を出ます。

学生:時間に遅れないように、いつも少し早く家を出ています。

みんなの日本語の36課では、「事故」は未習のため、訳語を使いました。

交通事故に遭います(事故:accident, दुर्घटना, 事故)

先生:これはいいことですか。

学生:いいことじゃありません。

先生:そうですね。何をしますか。

学生:信号を守ります。/車に気をつけます。

板書した「交通事故に遭います」の所にA、「信号を守ります」の所にBと書いて、A+Bと書きました。

先生:A+Bは、どうなりますか。

学生:交通事故に遭わないように、信号を守ります。

学生:交通事故に遭わないように、信号を守っています。

「〜ないように、〜」の例文

  1. 用事を忘れません・いつも手帳に書いています
    →用事を忘れないように、いつも手帳に書いています。
  2. 道をまちがえません・スマホで調べておきます
    →道をまちがえないように、スマホで調べておきます。
  3. 歯が悪くなりません・寝るまえに歯を磨いています
    →歯が悪くならないように、寝るまえに歯を磨いています。
  4. 試合に負けません・毎日練習しています
    →試合に負けないように、毎日練習しています。

「〜ないように、〜」の練習

  1. かぜをひきます。これは良くないですね。何をしていますか。
    →かぜをひかないように、(                    )

    解答例:かぜをひかないように、マスクをしています。
    かぜをひかないように、早く寝るようにしています。

目的を表す「〜ように」とは

「PようにQ」は望ましい状態・状況を述べることにより目的を示す表現です。
Qは意志的な動作ですが、Pは意志的な動作ではなく、可能形・否定形や「なる」などの状態を表す動詞が来ます。PとQの主体は同じ場合も異なる場合もあります。

庵功雄ほか 初級を教える人のための日本語文法ハンドブック p216

目的を表す「〜ように」と「〜ために」の違い

「〜ように」と「〜ために」は通常置き換えられません。両者は基本的に次のように使い分けられています。
⑴ 進学する{×ように/○ために}貯金した。(意志的・同一主体)
⑵ 進学できる{○ように/×ために}貯金した。(無意志的・同一主体)
⑶ 子供が進学できる{○ように/×ために}貯金した。(無意志的・異主体)

庵功雄ほか 初級を教える人のための日本語文法ハンドブック pp216-217

意志動詞、無意志動詞とは・・・???

次に、二つの資料を載せます。

ひとつは、アークアカデミー梅田校で2013年5月〜7月に行われた「夕学、日本語教育」講座のレジュメです。以下、「夕学」と言います。

もうひとつは、「庵功雄ほか 初級を教える人のための日本語文法ハンドブック」の「動詞の意志性」のところです。以下、「ハンドブック」と言います。

二つの資料で同じ点は、意志動詞と無意志動詞を区別する基準です。

夕学には、「意志動詞は意志形と命令形が本来の意味で用いられる」「無意志動詞は意志形と命令形が本来の意味で用いられない」とあり、本来の意味で用いられるかどうかが基準です。

ハンドブックには、「『わかる、思う』などは『わかろう、思おう』と言うことはできる点で意志動詞に分類されますが、これらの動詞の場合には『わかろうと努力する』という意味になり『泳ごう』などとは性質がやや異なります」とあります。

これは、意向形(意志形)の意味を問題にしていて、他の意向形と少し意味は違うが「言うことができる点で」、意志動詞に分類されるということなので、夕学と同じだと言えます。

夕学とハンドブックで、意志動詞・無意志動詞の用語の使い方は違いますが、意志動詞にあたる動詞は、意志的、無意志的の両方の使い方ができるという点も同じです。

夕学では、可能表現を無意志動詞に入れていますが、ハンドブックでは、可能表現は無意志動詞に入っていません。

夕学では、「『流れよう』『むせよう』『泳げよう』という意志形は推量を、『流れろ』『むせろ』『泳げろ』という命令形は願望を表しているに過ぎない」としています。

一方、ハンドブックでは「無意志動詞は意志的にすることを表さない動詞ですから、意向形にできないと同時に命令形にもできないのが普通です」としています。そのあと、「ただし」として、否定命令(禁止)にはできるものや、第三者に向かって希求または呪うような「もっと困れ」などの言い方ができるものもあるとしています。

ハンドブックには参考文献が紹介されています。

小泉 保他編(1989)『日本語基本動詞用法辞典』大修館書店

小泉他編(1989)はすべての動詞について記述されているわけではありませんが、ある動詞がどのような文型を取るかという情報から、受身・使役・可能・アスペクト・意志・命令・禁止などの形があるかないかという情報まで記述されています。

次は、アークアカデミー梅田校で2013年5月〜7月に行われた「夕学、日本語教育」講座のレジュメです。

意志動詞と無意志動詞

人間の意志による動作を表すものが意志動詞、人間の意志によってコントロールできない動きを表すものが無意志動詞である。

意志動詞は意志形と命令形が本来の意味で用いられる。つまり、「行こう」「食べよう」という意志形が意志や勧誘を、「行け」「たべろ」という命令形が命令を表している。

これに対し、無意志動詞は意志形と命令形が本来の意味で用いられない。「流れよう」「むせよう」「泳げよう」という意志形は推量を、「流れろ」「むせろ」「泳げろ」という命令形は願望を表しているに過ぎない。

この無意志動詞には、
①非情物の動きを表す。
②自然現象を表す。
③人間の生理的な現象を表す。
④人間の心理的な現象を表す。
⑤可能表現 
などの用法がある。

(課題)次の文について考えなさい。
⑴ のどが渇いた。
⑵ 稲妻が光った。
⑶ こんな勉強にはもう飽きた。
⑷ お風呂の水があふれているようだ。
⑸ ドーム球場では、雨の日でも試合ができる。
⑹ 日本で働くにはビザが要るらしい。
⑺ A 昨日、財布を落とした。
B ブラシで汚れを落とした。
⑻ A 大事な花瓶を割ってしまった。
B 卵を割って、目玉焼きを作ろう。
⑼ A じゃんけんで負ける。
B 接待麻雀でわざと負ける。

⑴〜⑹は無意志動詞である。⑹は状態性の動詞で、「ある」や「異なる」などの動詞も無意志動詞であるといえる。

⑺〜⑼を見れば、同じ動詞でも、文脈によって意志動詞として使われたり、無意志動詞として使われたりすることが分かる。このことから、「新人のミスを見逃す」のような曖昧文が生まれる。「わざと」見逃した(意志)のか、「うっかり」見逃した(無意識)のか、これだけでは分からない。見分けるためには、それを説明する言葉なり、文脈なりが必要である。

アークアカデミー梅田校で2013年5月〜7月に行われた「夕学、日本語教育」講座 第5回のレジュメ

次は、「庵功雄ほか 初級を教える人のための日本語文法ハンドブック」の「動詞の意志性」のところです。

動詞の意志性

⑴ 恋人に振られ悲嘆に暮れていたとき、あの人に出会った。
⑵ ?今度はもっといい男と出会おう。
⑶ 学生が注意しているか確かめるためにわざと間違った字を書いた。
⑷ 他のことを考えていて間違った字を書いた。

◆動詞は意志的な意味を表すことができる動詞と表すことができない動詞に分けられます。⑴⑵の「出会う」のように無意志的な行為を表すことはできるが意志的な行為を表すことができない動詞を無意志動詞、⑶⑷の「書く」のように意志的な動作も無意志的な動作も表すことができる動詞を意志動詞と言います。

◆無意志動詞は、人が主語にならない「ある」や「(雨が)降る」などの他、人間の生理現象や心理現象を表す「むかつく、飽きる、いらだつ、悔やむ、困る、照れる、ためらう、迷う、気がめいる」などがあり、意向形として「×むかつこう」などの形として言えないものです。この他、「授かる、もうかる」などの受身的な意味を持つものや「出会う、巡り会う」など「偶然」という意味を内在するものもここに含まれます。

無意志動詞は意志的にすることを表さない動詞ですから、意向形にできないと同時に命令形にもできないのが普通です。例えば「×もう飽きろ」とは言えません。ただし、「あまりいらだつな」のように否定命令(禁止)にはできるものや、第三者に向かって希求または呪うような「もっと困れ」などの言い方ができるものもあります。

◆意志動詞は、意志的にも無意志的にも使える動詞で、「泳ぐ、書く、話す」など動作動詞の大半がこのタイプに入ります。

意志動詞は無意志的な動作を表す場合もあります。例えば「転ぶ」は「転ぼう」と思っていなくても「つまずいて転んだ」と言うことができます。

「わかる、思う」などは「わかろう、思おう」と言うことはできる点で意志動詞に分類されますが、これらの動詞の場合には「わかろうと努力する」という意味になり「泳ごう」などとは性質がやや異なります。

庵功雄ほか 初級を教える人のための日本語文法ハンドブック pp369-370
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