名詞修飾節のガ・ノ交替(「中級を学ぼう」1課)

日本語の教案

ガ・ノ交替 導入

導入1

先生「みなさんの部屋の窓は大きいですか。」

学生「はい、大きいです。/いいえ、小さいです。」

先生「窓が小さい部屋」

先生「窓の小さい部屋、OKです。」

導入2

先生「みなさんの部屋はテレビがありますか。」

学生「はい、あります。/いいえ、ありません。」

先生「テレビがない部屋」

先生「テレビのない部屋、OKです。」

名詞修飾節で「の」が使えない時

先生「テレビが2台テーブルの上にある部屋」

先生「テレビの2台テーブルの上にある部屋、長いです。わかりません。」

練習問題

次の言葉を見ながら、1番なら「エアコンがある部屋」「エアコンのある部屋」と発話する練習をしました。そして1問ずつ意味を確認しました。

1) エアコン(  )ある部屋

先生「この部屋にあるのは何ですか。」

学生「エアコンがあります。」

2) 水(  )ある星

先生「この星にあるのは何ですか。」

学生「水があります。」

3) 深い意味(  )ある言葉

先生「この言葉にあるのは何ですか。」

学生「深い意味があります。」

4) 風(  )強い日

先生「この日はどんな日ですか。」

学生「風が強い日です。/風の強い日です。」

5) ショパン(  )生きた時代

先生「この時代を生きた人は誰ですか。」

学生「ショパンです。」

6) 娘(  )通う学校

先生「この学校に通っている人は誰ですか。」

学生「娘です。」

7) わたし(  )愛したあなた

先生「私は誰を愛しましたか。」

学生「あなたです。」

8) リンさん(  )住んでいる所

先生「そこに住んでいる人は誰ですか。」

学生「リンさんです。」

9) 花(  )咲いていない木

先生「この木はどんな木ですか。」

学生「花が咲いていません。」

10) わたし(  )よく知っている人

先生「この人をよく知っている人は誰ですか。」

学生「私です。」

先生「どんなときに「の」をよく使うと思いますか。」

学生「続いている……」

先生「そうです。「ずっと」のときです。」

教えていないこと

中級に入ったばかりの段階だったことと、この文法項目に使える時間も少なかったので、

次の引用にあるような内容を扱っていません。

初級を教える人のための日本語ハンドブックp343

形式名詞の中でも、「よう」は「彼の言ったように」のように名詞修飾の場合と同じガ・ノ交替があります。

初級を教える人のための日本語ハンドブックp343  庵功雄ほか

また、「明日は雨降るそうだ。」のような単文は、ガ・ノ交替ができず、

「×明日は雨降るそうだ。」は間違いであることも教えていません。

この教案を作るときに参考した資料

「連体修飾節における『が・の』交替について」金城, 克哉(琉球大学学術リポジトリ)(http://ir.lib.u-ryukyu.ac.jp/bitstream/20.500.12000/429/1/katsuya_04.pdf

この論考の「結び」のあった「状態を表す述語の場合に多用される傾向にあって……」から、この教案の最後を考えました。

連体修飾節における「が・の」交替について  金城,克哉

初級を教える人のための日本語ハンドブックp184

名詞修飾節内のガ格は「〜の」で言い表すことも可能です。
 ⑴ 太郎{が/の}書いた手紙
このような交替をガ・ノ交替と呼びますが、ガ格名詞句と修飾される名詞との間にいろいろな語句が入っている場合にはガ格のほうが自然です。
 ⑵ 太郎{○が/✖️の}夏休み中に一生懸命書いた手紙

初級を教える人のための日本語ハンドブックp184  庵功雄ほか

ガ・ノ交替って、何?

最初、「私の本」が「私の買った本」になっていると思っていました。

そうすると、「夜景の見えるレストラン」は「夜景のレストラン」からできていることになりますが、「夜景のレストラン」は意味がわかりません。

日本語の歴史の本では

「山口堯二(2005) 日本語学入門p182(昭和堂)」では、

格助詞「が」「の」が、文語(奈良時代・平安時代が中心)と口語(近現代語)でどんな格を示しているのかを整理しています。

表にすると

主格を示す連体修飾格を示す
文語(奈良時代・平安時代が中心)が・のが・の
口語(近現代語)が・の
格助詞「が」「の」が示す格(文語と口語)

文語では「が」と「の」の区別がなく、どちらも主格と連体修飾格を示していたようです。

そして次のように説明が続きます。

文語の「が」と「の」は、ともに主格と連体修飾格を示せる。

しかし、主格を示す用法については、かなり制限があり、古代語*では次のような複文の従属句(連体句、準体句、複文の前句など)の中で、主格を示す場合にほぼ限られていた。

(*この本のp158から、「古代語」と「文語」は、同じ時代区分として使っていると読み取れます。)

  汝(なんぢ)持ちて侍る(はべる)かぐや姫

  かぐや姫ある所に(以上、竹取物語) 〈連体句の中の例〉

  嘉種(よしたね)来たりけるを……聞きつけて(大和物語・七十六)

  月おもしろう出でたるを見て(竹取物語) 〈準体句の中の例〉

  青山に日隠らば(かくらば)(記歌謡・三)

  日暮れぬれば(竹取物語) 〈複文の前句の中の例〉

普通に終止形で終わる単文の中での主格については、院政期(1086ー1191年)ごろまでは、次のように格助詞は用いられなかった。その該当する助詞なしの位置を△で示す。

  昔、男△ありけり。(伊勢物語・二)

  潮△満ちぬ。(土佐日記)

このような単文の中の主格にも、「が」「の」の使用が始まるのは、院政期のころである。

山口堯二(2005) 日本語学入門p183(昭和堂)

文語では、複文の従属句(「従属節」のことでしょう)で、「が」も「の」も、かなり使っていた感じです。

「日の暮れぬれば」(日が暮れたら)では、確定条件を表す従属節で「の」を使っています。

口語では、「日が暮れたら」は言えても「日の暮れたら」は言えません。

さらに、単文の主格には格助詞を使っていなかったということです。

確かに、「昔、男△ありけり」で、昔、勉強しました。

ネットで見つけた論文

さらに、次のような論文を見つけました。

「ガ/ノ」交替現象についての一考察〈古代・現代コーパスを対照して〉坂野 収(https://www.ninjal.ac.jp/event/specialists/project-meeting/files/JCLWorkshop_no4_papers/JCLWorkshop_No4_22.pdf

この論文では、「3.1中古語*の格交替」で、次のような例文を載せています。

(*中古語:平安時代の言葉)

⑴ 連体形節(連体形終止節)の場合

 a. [いと胸φいたかるべき]ことなり         (源氏物語)

 b. [こがるる胸苦しき]に思ひあまれる炎とぞ見し  (源氏物語)

 c. 花すすき[君φなき]庭に群れたちて        (古今和歌集) 

 d. [鏡にて影見し君なき]ぞ悲しき         (大和物語)

 e. [梅の香φをかしき]を見出してものしたまふ。   (源氏物語)

 f. [菊の花うつろへる]を折りて、男のもとへやる   (伊勢物語)

 g. [日φたくる*]ままに、いかならんと思したるを   (源氏物語)

   (*たくる:「たく」の連体形:〈日や月が〉高くなる[旺文社全訳古語辞典])

 h. [日かさなる]ままにいみじくなむ、       (落窪物語)

中古語の連体形節(前述の「日本語学入門」の「連体句」と「準体句」を含んでいるようです)で、「格助詞なし」、「が」、「の」の三通りがあったということです。

現代語の名詞修飾節で「ガ・ノ交替」があるのもやむを得ないと思いました。

文語での「が」と「の」の違い

前述の「日本語学入門」に、次のような記述があったので、紹介します。

文語の「が」と「の」は、人をさす人称詞に付く場合には、敬意の差で区別された。

また、活用語の連体形で体言的にまとまる準体性の句には、次のように「が」のみが用いられた。

昔、男、友だちの人を失えるもとにやりける。(伊勢物語・百九)

(昔、男が、友達で愛人を失ったひとのもとに詠み贈った歌。)

山口堯二(2005) 日本語学入門p183(昭和堂)
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